房総エッセイ

市原市 新東京サーキットでレース観戦

レーシングカートのメッカ!新東京サーキット競技場 おでかけ

初めて聞く習い事

房総に来る前は東京と県境の街に住んでいた。「川を渡れば東京」のポジションにある街はどこも例外なくベッドタウンで住宅密集地。そのころ活躍してくれていたのは自動車よりもむしろ自転車だった。駅前まで買い物に行くにも、ちょっとした通院にも、住宅街の細い道をちょろちょろ進むのにとても便利。まだまだ乗れるので引越しトラックに積んで持ってはきたけれど、住み始めた場所は近隣に店などなく、路肩が狭い車道も多いため、気がつけばついに一度も乗らないまま一年が過ぎてしまった。
  
ポテンシャルを活かす機会を与えてもらえない哀れな自転車のことを友達のシュウさんに話したら、「私、もらってはダメですか?結構使うと思います」と申し出てくださって、あれよあれよと自転車は新天地へと旅立つことになった。
引き取り当日。シュウさんはご主人と一緒にやって来られたが、庭に停められた車を見て私は呆気に取られてしまった。
  
長いベンツ
こんな形のベンツ見たことない…
 
長〜いベンツ。ミニバンよりさらに後方に長い。ドアを開けると後側は広い室内荷台のようになっていて、そこへご主人が自転車を乗せ、慣れた手つきで固定ベルトをかけていかれる。
 
「珍しい形ですね。こんなの初めて見ます。」
「息子がレースやってたの。レーシングカートを乗せられる車が必要だったから。」
 
はて、レース?? 母親をやっている同世代の友達からお子さんの習い事やスポーツの話はよく聞くが、「レースをやっている」という話は聞いたことがない。そしてレーシングカートって何だ?
 
「サーキットをぐるぐる回るんです。F1の小さいバージョンみたいな感じ?」
 
何?房総って、子供の習い事にF1があるの?

レーシングカートとは

私のカートの思い出といえば、まず小さいころ遊園地で乗った「ゴーカート」だ。自分が操縦する車で自由に走行するのはとても楽しかった。もう一つは人気ゲームの「マリオカート」。バーチャルの世界ではあるけれど、速いスピードでのスリリングな競争に興奮した。上手い同級生はコーナリングでドリフト走行なんかもしていたっけ。
この2つの思い出のうち、「レーシングカート」に該当するのは「マリオカート」である。
 
ゴーカートとレーシングカートはどちらも小型エンジン付き車両で、操作はハンドル・アクセルペダル・ブレーキペダルの3つだけという点も同じだが、違うのは用途と性能だ。遊園地のゴーカートはレジャー用だから最高速度は遅めで、ケガをしないよう安全設計で作られている。対してレーシングカートはスポーツ競技用で、より速いタイムを求めて不要なものを一切削ぎ落とした造り。本格的なものだと最高時速は100km以上になるらしい。マジか。
  
ゴーカートとレーシングカートの違い
 
初めて乗車する子供でもカンタンに操作できるゴーカート。それと動かし方は同じと言えど、スピードが上がればまともに走らせるのは容易ではないだろう。目線が低く地面が近いから、まず操作うんぬんの前にめちゃくちゃ怖そうだ。
 
「今度、市原のサーキットコースで大会ありますよ。主人が監督してるチームの子が出るから、一緒に見に行きます?」
 
「見たい見たい!」と二つ返事で答えた。F1も競輪もボートレースも行ったことがないから、人生初のレース観戦だ。まさか房総でこんな体験ができるとは!

未知の世界、レーシングカート競技

市原市 新東京サーキット競技場

当日は絶好調な猛暑日となった。選手もサポートする人たちも大変だな。
房総には市原と茂原にサーキットコースがあり、今回向かったのは市原の「新東京サーキット」で、ここはレーシングカートのメッカと言われているらしい。
「ザ・レース場」という感じのゲートが出迎えてくれて、「これは上がる!」と大きな独り言を言いながら、ブーと車でくぐって入場した。特にチェックなどはなく、誰でも自由に入れるようだ。
 
すでに大会は始まっており、サーキット内をビュンビュン走行するカートが見える。こんなに速いの?! 普通乗用車ではあるが自分も運転するので、ものすごく難しい運転をしていることは分かる。短い距離でのヘアピンカーブ、あんなのよく曲がれるな。身体にかかるG(重力加速度)ものすごいんだろうな。私だったら一発で吐きそう。
  
市原市新東京サーキット競技場
 

レーシングカート競技参加の仕組み

シュウさんと落ち合って、ご主人のチームブースへ連れていってもらった。「こんにちは」と挨拶してくれたイケメン男児、彼が本日のドライバーらしい。…子供だ。聞けば小学4年生、10歳とのことだった。
 
「レースって何歳から出られるんですか?」
「えっとね、確か8歳?ライセンス取らないといけないんですけどね」
 
もう分からん。未知の世界が、今ここに展開されている。
聞いたことをまとめると、

  • 競技出場には「カート専用」ライセンスが必要で(日本自動車連盟『JAF』が発行)、8歳から申請可能。カート専用ショップやサーキット場を通して、手続きや講習を受ければ取得できる。
  • ドライバー(競技運転者)のライセンスだけでは競技に出られない。大会主催者と契約できるのは「競技運転者」ではなく「競技参加者」と呼ばれる人で、こちらにもライセンスが必要。
  • 「競技参加者」は走行する車両の整備、その車両が大会の安全基準を満たしているかの書類提出、万が一の事故に備えて保険加入を行うなどの手続きをする。つまり大人(保護者やカートショップオーナー)。
  • 結論:競技運転者許可証(ドライバーライセンス)競技参加者許可証(エントラントライセンス)、両方そろってやっと出走できる。

2つのライセンスが揃って出場できる
 
ドライバー(子供たち)は技術・体力鍛錬に一生懸命だと思うが、それをサポートする大人たちの尽力も無視できない。サーキットは日本各地にあり、中でもF1で有名な三重県鈴鹿はカート競技においても全国大会的なレースが行われるらしく、その時は自分たちでマシンを現地まで運ぶ必要があるらしい。なるほど、それであの長いベンツかと合点がいく。
どんなスポーツも本気となれば、親と子の二人三脚である。

超軽量化された車両

  
レーシングカート
最低限必要な部品しか使われていない
 
10歳イケメンドライバーが乗車するカートを見て「ヒエ〜」となる。これがレーシングカートか、なるほどゴーカートと全く違う。パイプフレーム、ハンドル、エンジンにタイヤ。覆うカバーも無く、何で構成されているのか素人目でも分かるくらい全てが剥き出しだ。スピードの妨げとなる重量、空気抵抗を発生させるものを削いで削いで、走るために本当に必要なパーツだけ残した結果がこの形なのだろう。
  
シュウさんのご主人は自身がレース経験者だから、車体整備はもちろんのこと、ドライバーの運転操作技術やメンタル、フィジカル面にも精通されている。何を質問しても、とても詳しい。

部門みたいなものはあるんですか?8歳から中学生までだと体格差もあるでしょう?
体格によってマシンの大きさが変わるので、それが部門ってことになりますかね。このマシンよりもう一段階小さいのもあります。そのエンジンは電動草刈り機くらいの馬力かな。
体重に不利有利はあるんですか?
まあ軽いほうがスピード出しやすいので有利なんですが、コーナーは体重がないとGに負けるんですよね。あと規定体重があって軽すぎても出走できないから、そういう子はマシンに錘を乗せます。そうすると自分の身体以外に重心ができてしまうので、コントロールがさらに難しくなる。ドライバーは体重を増やす努力も必要です。
シートベルトは無いのですか?
あると逆に危ないです。バイクと同じだから。万が一事故になったとき、マシンと身体が固定されていたら一緒にふっ跳んじゃうでしょ。離れていたほうが助かる可能性があります。
シートベルト無いと、急ブレーキのときに前のめりになりません?
前のめりどころか前方に飛びます。滅多にないことだけど、自分が運転していたカートにひかれることだってある。

回答内容がものすごく「ザ・経験者」という感じがする…。F1はフィジカルとメンタル双方を高めた究極の世界と聞くが、これらのずっと先にそれがあるんだな。信じられないような話が沢山あるんだろうなァ…。

観戦!レーシングカートレース決勝戦

そんなこんなで決勝レースの時間となった。出走車は予選タイム順に前方から並び、合図とともに一斉に走り出すが、実はこれがスタートではない。まず平すようにコースを回り、そのうち徐行しながら最初の順番に再び並びなおす。その状態を保ったままスタート地点まで戻ることができれば、そこでやっと競技開始。これが整わなければいつまでもスタートできないが、通常は2周目には揃うという話だ。
  
レーシングカートスタートルール
 
徐行状態で入ってきたカート群に競技開始の合図が出て、各車のスピードが一気に上がった。出走しているのはすべて小学生。相当早いと思ったら、平均速度はなんと時速80km!地面スレスレを走っているので体感速度はさらに速く、時速250kmくらいに感じるそうだ。コーナーを回るとき、ヘルメットが上下に動くのが見える。クッションも何もないのだから振動も相当拾っているだろう。そんな状態の中で、他のドライバーとの接触や運転ミスによるコースアウトを避けながら、より早いタイムを目指してアクセルを踏み続ける。
自分だったらと想像する。瞬時の判断、緊張、恐怖。常に興奮状態であるだろうし、自分で自分を言い聞かせてメンタルコントロールする必要もあるだろう。1周まわるだけで身体以上に脳のほうがヘトヘトになる。これがモータースポーツの世界か。
  
レーシングカートレースヒーローインタビュー
ヒーローインタビューでは10歳の少年の顔
 
幸い事故も起こらず、全員無事完走してレースを終えた。優勝者は10歳のイケメンドライバー。ヒーローインタビュー的な時間が設けられ、暑さと興奮で頬を真っ赤にしながらも、満面の笑顔で答えている。2位と大差をつける圧勝だったけれど、彼も鈴鹿に行けば入賞できるかどうかギリギリの世界らしい。
会場には暑さ対策もかねて簡易プールが用意されており、インタビュー後、彼はたちまち水着に着替えてそこに飛び込んだ。水鉄砲のオモチャで友達と盛り上がっている姿を見ると、さっきまですごいレースを展開していたとは思えない。
彼は今の時代に珍しい、ストレス耐性の強い人間にきっと育っていくのだろう。
  
シュウさんと別れて家路につく。帰りの運転はなんとなく、普段より慎重になってしまった。

情報のまとめ

今回立ち寄った場所の情報です。

新東京サーキット競技場しんとうきょうサーキットきょうぎじょう
住所
〒290-0256 千葉県市原市引田 字二本松249
HP
https://www.n-tokyo.co.jp/
新東京サーキット競技場スタート地点
新東京サーキット競技場レースコース
おすすめポイント
レーシング競技ができるのは、広い土地を確保できる地域ならでは。子供から大人まで、レーシングスポーツを思い切り楽しめます。前もって予約をすればレンタルカートでの体験走行も可能です。
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